金星の王子様

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「どうやらそこまで重症ではなかったようです」  すぐに直るものでしたので修理完了しましたよ、と孝志は車の持ち主に修理内容を実際に車の前で説明した。壊れちゃいまして、とやってきたこの美形を見たときはどんな傷や故障なのかと思ったが、軽いもので良かった、と胸を撫で下ろす。  孝志が説明している間、男は彼の動きを目で追っていた。動きというか、顔をみられているような。観察されているような。それに気付き、孝志は男の方に向き合った。 「以上が修理内容となってるんですが、何か不安なことなどございますか?」  バチ、と目が合ったことにより男が目を瞬かせる。そこで初めて男の目をしっかりと捉えた孝志はビー玉みたいに綺麗だな、とぼんやりと思った。 「あの…ビー玉…?」  目を瞬かせる男の瞳に小さな星がぱちぱちと浮かんだ。その台詞に孝志は緩んでいた口を手で覆った。 「ッ、…声に、出てました…?」  ええ、と少し照れくさい表情で男が頬をかく。 (しまったああああ)  どうやら口に出ていたらしいということに気付き、孝志の顔に熱が集まる。両手で頭を抱え、時折顔の熱を他所にやるために仰いだりしているが男から見れば余計に赤くなっていくだけだった。 「…ふふ。本当に丁寧な仕事をして頂いたので、しっかりした方だと思ったんです」  口元に手をやりながら嬉しそうに微笑む男の周りにキラキラとしたものが降っているように孝志には見えた。実際そんなものはないのだか。 「でも、可愛いお人でもありますね」  そう言って目を細める男に孝志の顔の熱はさらに集まるばかりで。照れ隠しに、男の俺にそんなこと言っても意味ないですよ、と早口に返答した。隠し切れていないのだがやらなければやってられないということもあろう。今がそれである。  いくつか書類を書いてもらうため、事務所の方に誘導する。 「は~、小路岡さんは人を喜ばせる天才ですね」  敵いませんよ、と冗談交じりに言うと名を呼ばれた男の整った唇がリオンでいいですよ、と紡ぐ。え、と事務所への扉の取っ手を掴む手が止まる。 「実は引っ越した来たばかりで、初めて車が故障しましてね。たまたま見つけたのがこちらで。今後もお世話になると思うので。小路岡では言いづらいでしょう?」  だからリオン、と。というキラキラしたものを纏ったこの男は本当に自分と同じ人間なのだろうかと孝志は思う。自分とは異なる、色素の薄い青い瞳が光に反射し、まるで海に太陽の光が反射してキラキラと輝くような。どこまでも自分を見通しているような、包んでくれるような美しい青い宝石。 (この綺麗なひとから、目が離せない)  このビー玉のような、美しいものを何故か懐かしいと感じた。
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