呼吸困難

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呼吸困難

 家の事情で一週間ばかり祖父母の家に泊まることになったのだが、泊まりに来てからどうにも体がだるい。  常に息苦しくて、水の中にでもいるかのようだ。  環境が変わったせいだろうし、泊まりの予定は一週間。だから我慢しようと思っていのだが、どんどん無息苦しさは酷くなる。  どうにもならないから、無理を言って早めに予定を切り上げさせてもらおうか。そんなことを思ったその日、俺は祖父母の家に猫が入り込むのを見かけた。  その瞬間、とんてもなくいつも以上に息苦しくなって、俺は喉を押さえてその場にしゃがみ込んだ。  もしかして俺、猫アレルギーだったのか? だから猫が出は入りする家に来てこんなに息苦しくなったのか?  息苦しさの中でそんなことを考えていたら、頭の奥の方で水音が響いた。  何かが水面で跳ねるような音。それを聞いた瞬間、俺は自分でも判らないまま祖父母の部屋に向かっていた。 「ばあちゃん。その金魚、どうしたの?」  祖父母の家には何度も来ているが、小さな金魚鉢も金魚も見たことはない。その疑問を衝動のままに口にすると、祖母は、友人の孫が縁日で手に入れたのだが、そこの家は金魚すら飼えない状況だとかで、自分が引き取ったのだと言う。 「しばらく見ててもいい?」  許可を得て水槽に近づくと、さっきまでの息苦しさが嘘のように引いた。でも俺はそれを不思議には思わなかった。  さっき祖父母の家に上がり込んだ猫が遠くからこっちを見ている。俺ではなく、目的は金魚鉢の中にいる小さな赤い生き物だ。  そうだな。お前だけじゃ、絶対アイツの爪で引っかけられて、水の外に引きずり出されちゃうもんな。でも俺がいたらアイツはお前に手を出せない。それを訴えていたんだろ?  結局その後は、一日の大半を俺は金魚と過ごし、祖父母と良心に無理を言って、金魚を譲ってほしいと訴えた。それに祖父母は快く応じ、両親も金魚くらいならと申し出を受け入れてくれた。  あれ以来、祖父母の家にいた時のような息苦しさを感じたことは一度もない。  連れ帰った金魚は、今日もすいすいと小さな金魚鉢の中を泳ぎ回っている。 呼吸困難…完
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