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「……なるほど」
水泳部の顧問、高岡が言葉を詰まらせた。
「……まぁ、やる気になったのはいいことだ。やるだけやってみろ」
言葉を選びながら高岡は野呂に告げる。
「よろしくお願いします」
野呂は高岡に頭を下げると、職員室をあとにした。
「高岡先生、のろすけ君なんの用だったんですか?」
社会科教師でバスケットボール部顧問の宮城が高岡にたずねる。
「ああ、何故だか知らないけど、3ヶ月頑張るから地区大会を突破したい、県大会に連れて行って欲しい、力を貸して欲しいってわざわざ頭を下げに来た」
「へぇ、あののろすけ君が……」
宮城は驚きを隠せない。
「さすがに無理じゃないですか?」
国語教師、剣道部顧問の寺川が呆れ顔で言う。
「ええ、かなり難しいでしょうね。でも……」
「でも、何ですか?」
英語教師、卓球部顧問の田中が高岡に訊く。
「でも、できれば連れて行ってやりたい」
高岡は真剣な表情で言った。
「いやいや、のろすけは無理でしょう」
そう言ったのは体育教師でサッカー部顧問の平だ。
「そこで能力を最大限引き出すのが私の仕事です」
高岡はやはり真剣だ。
「すみません。そもそも、そののろすけくん……ってコ、そんなにダメなんですか?」
つい1週間前に転勤して来た理科教師、原西がたずねた。
「ええ。筋金入りの幽霊部員でしたから」
高岡にニコニコしながら言った。
「それに、極度の運動オンチです」
平が自信たっぷりの表情で言う。
そう。のろすけは、筋金入りの運動オンチなのだ。
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