夫婦というもの

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 月子は、監獄生活でも強いられてるような、閉塞感を覚えていた。結婚生活という閉塞感。結婚すれば、薔薇色の人生をおくれる。そう信じてやまなかった。  と、こ、ろ、が……。  月子の主人、秀雄は、赤ちゃんのような亭主であった。つまり、マザコンであった。この亭主のために、閉塞的な日々を送らざるを得ないでいる。 月子が夕方に、買い物に出歩いて、帰りが遅くなるとする。家に帰って月子がいなければ、いったん外に出て、時間をつぶし、月子が帰ってきているのを見てから、「ただいま」といって、部屋に入る。あかりのついてない部屋に帰るのが嫌だからだ。だから、「お前は、赤ちゃんか!」と、いってやりたい。  三番目に文句をいってやりたい人物は、ほかでもない亭主である。だが、結婚生活に弊害を引き起こしかねないので、黙ってつつましい妻の仮面をかぶっている。 「私はいわば、翼をたたんだ鳥」  そう自分にいいきかせることで、日々、忍耐している。そんな亭主が、朝食の時、箸を止めて、月子の目を見つめて囁いた。 「俺より先に、死なないでほしい」  気持が悪い、これは何かある。そう勘ぐったものの、ときめいている自分がいる。つき子は、新婚当時の愛を胸の内によみがえらせて、囁き返した。 「いや、私よりあなたが先に、死なないでほしい」  すると、亭主はむきになっていった。 「いやいや、先に死ぬのは俺だ」 「ううん、わたしよ」 「俺が先だってば」 「違う、わ・た・し」  月子は、こんなにもむきになるんて、やっぱり裏があるんだろうかと心配になってきた。 「だって、先にお前に倒れられても、俺、家事はできないし、お前を介護して看取る自信がないもん」  急速に愛は冷めていった。 あいかわらず、亭主は月子に、ふいに、「俺より先に、死なないで欲しい」と囁く。  主人の口癖であるのは、もう分かっている。はたから見れば、仲むつまじい夫婦という誤解をまねきかねない。  月子は、自分が主人の召使のような気がしてならない。  I love youではなく、I need youなのである。
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