金の葡萄

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 私、お母さんになるんだよ、と幸せそうに言うものだから私は三回目の疑問符ついたため息を押し殺した。レズの女がひとり出産? シュール過ぎると私は厭きれた。というか意味がわからなかった。 「私は亜希の言っていること、全然わかんないんだけど」 「子どもが欲しいから、子どもを産みます。以上。どこも矛盾がないでしょう?」  いやいやいや、本当にちょっと待て。問題は山積みだろう、と私は言いかけた。脳内の処理が追いつかないので、私は考えることをやめた。そしてランチの席から立った。 「仕事に戻らなきゃ」 「あ、うん。こっちこそ急に呼び出してごめんね。またね」  亜希は伝票をちゃっかり持って、呼び出したのは私だから、と言って、私は嵐の中で財布すら出すひまを与られえなかった。亜希は颯爽と私の前から去って行った。ワケがわからない。わかったのは亜希に報告をされて、こんなに揺れ動くのは私の心情だけだった。ワケがわからない。  私は仕事場へゆっくりと歩いた。とにかく落ち着こうと。幸い頭をフルに回転させる仕事だけれど、家に帰ったらきっと悶々とするんだろうな、という確信があった。とにかく爆発物処理は家に帰ってしようと思う。     
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