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第1話 知らなければ幸せ
「あなたは、死にました」
暗闇の中で、不躾(ぶしつけ)な声が聞こえてきた。
若い女……だろう。
とても明瞭で、そして透明感のある美しい響き。
姿カタチは見えないが、何となく美人なんだろうなと思う。
「死んだかー。とうとうオレも……、死んだ?!」
本当に?!
これマジのやつ?
友達の悪ふざけとか、イタズラじゃなくて?
確かに自分が置かれている状況には強烈な違和感がある。
言葉を発せない、というか口と呼べる部分が『無い』ようだ。
もちろん比喩なんかじゃなく、口を動かしたという感覚がない。
反射的に手で顔をまさぐろうとしたが、ダメだった。
どうやら両手も同様に『無い』ようだ。
腕どころか、指一本分の感覚が消え去ってしまっている。
てっきり寝ぼけているのかとも思ったが、意識は妙にクリアだった。
まるで8時間寝た後のような爽快感すらある。
ただ、体だけを何処かに置いてきたような感覚だ。
そこまで思考が辿り着くと、寒気に襲われた。
ーーオレ、本当に死んだのかも……。
何者かの声が聞こえてくる。
これも『聞いている』んじゃなくて『感じてる』のかもしれない。
きっと耳も無くなっているだろうから。
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