愛の悲しみ

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「詰めてもらえる?」  横柄な物言いだった。だが、それに従うかのように、私は、隣の椅子に置いてた鞄を持ち、そのままそこへ移りはした。ただ、そのおり、幾分か訝しげな雰囲気を醸し出した。 「いらしていたのね?」  先ほどとは違うしおらしさがあった。ただ、ほだされるものでもないが、少なからずあった嫌悪の感を示すのは止めることにした。こうして、少しは、会話が持てる様になった。 「お嬢さんとfacebookで友達になっていたとは。」  必然的であったといえた。だが、婉曲的な言い方しか出来なかった。こんな具合に。やはりそうだろう。今や他人なんだから。この催しを知ったのは、タイムラインの投稿だった。きっと隣に座る彼女も。もっとも察しはついていたが、間をもたすために聴いていた。そうして、彼女も同様であったと応えてくれた。 「亡くなったお母様には、大変お世話になったもの。」  然りだ。そう、このバイオリニストのお母様に。ある意味、恩に報いるためでもあった。
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