ある金曜日

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昼過ぎ、ATMでお金を下ろした聖子は、ごきげんな様子でブランドショップを数件回り、お気に入りのカフェでのんびりと本を読んで時間を潰した。暗くなるのを待ち、待ち合わせの場所に向かう。 仕事を定時で終わらせてデートに駆け付けたのは、晴彦だった。年上だけれど身なりがよく、いつも笑顔を絶やさない秘密の恋人に、晴彦はデレデレとした表情を向ける。 「お待たせ。――またブランドもの買ったの? いいね、社長さんは。羨ましいよ」 聖子はにっこり笑って、持っていた袋を差し出した。 「これプレゼント。私のセンスで、気に入るかわからないけど……」 え、と慌てた晴彦は気まずそうに頭をかく。 「えーと、今日って、何かの記念日だったっけ……?」 聖子は品よくころころ笑う。 「そんなんじゃないのよ、気にしないで。今日は仕事がうまくいったから……ちょっと嬉しくて」 ほっとした晴彦は、並んで歩きながら気安く腰に手を回す。 「そっか。それはよかった。……いつもありがとうね、奢ってもらってばっかで……おこづかいまでもらっちゃって」 「いいのよ。おこづかい、少ないんでしょ」 聖子が言うと、晴彦は大げさに溜息をついた。 「そうなんだよ。俺が稼いでるのにさ、あんまりもらえなくて……。そのくせアイツ、料理もあんまり得意じゃないし、聖子さんみたいにきれいにしてないし……」 「あら」と聖子は目を大きくする。 「そんな風に言っちゃだめよ、ハルくん。女だからってみんな料理が得意なわけじゃないし、苦手なのに作ってくれてるんなら、むしろえらいじゃないの。それに、身だしなみにお金をかけないのもいいことだわ。それだけ堅実ないい奥様ってことじゃないの」 妻を褒める恋人を、晴彦は惚れ惚れと見る。 「やっぱり聖子さんは優しいな。……経済的に豊かだと、心も豊かになるんだね」 聖子は「ありがとう」と柔らかく微笑む。 「だからね、ハルくんがこうしていられるのは、みんな奥様のおかげなのよ……」
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