34人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
「はい、こっちが初心者向け。こっちの上のが中級、底の方はちょっとヘビーかな」
「コレって、うわ! 重っ!」
さすがにコレを持って階段上れとは、女の子に言えないよなぁ。
コマさんが、こっちを見て低く唸っているので、ボクはすぐに退散することにした。
じゃ、と会釈して帰ろうとすると、君枝さんが楽しそうに言った。
「わたし、嬉しいですぅ。後で感想聞かせてくださいねっ」
「? うん。先生に伝えとく」
百段階段プラス負荷。
ムリ。全身汗みずく。
さすがに途中で休憩を入れた。
段に座り込んで下界を見下ろす。
川を一本挟んだ向こうに、村が見える。在所はあれ、だろう。などと眺めていたら、ふいにメモリが、
《君枝さんは好ましい方ですね》
などと言う。
「いい子だね」
《大事になさい》
「何それ。別にそんなの無いよ」
《友達として大事にしなさいという意味です。他意は無いですよ。ただでさえ貴方は友人が皆無なんですから》
「皆無じゃないよ。輝人が……」
口をつぐんだ。
絶交したわけではないけれど、交友は途絶えたのだ。
卒業式の後。
離ればなれになる友人、輝人はこう言った。
――俺は、お前の事だけが気がかりなんだ
そして、一枚の名刺をボクに手渡した。
『心理カウンセラー』と肩書きがあった。
最初のコメントを投稿しよう!