第六話 イヤよイヤよも

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「はい、こっちが初心者向け。こっちの上のが中級、底の方はちょっとヘビーかな」 「コレって、うわ! 重っ!」 さすがにコレを持って階段上れとは、女の子に言えないよなぁ。 コマさんが、こっちを見て低く唸っているので、ボクはすぐに退散することにした。 じゃ、と会釈して帰ろうとすると、君枝さんが楽しそうに言った。 「わたし、嬉しいですぅ。後で感想聞かせてくださいねっ」 「? うん。先生に伝えとく」 百段階段プラス負荷。 ムリ。全身汗みずく。 さすがに途中で休憩を入れた。 段に座り込んで下界を見下ろす。 川を一本挟んだ向こうに、村が見える。在所はあれ、だろう。などと眺めていたら、ふいにメモリが、 《君枝さんは好ましい方ですね》 などと言う。 「いい子だね」 《大事になさい》 「何それ。別にそんなの無いよ」 《友達として大事にしなさいという意味です。他意は無いですよ。ただでさえ貴方は友人が皆無なんですから》 「皆無じゃないよ。輝人が……」 口をつぐんだ。 絶交したわけではないけれど、交友は途絶えたのだ。 卒業式の後。 離ればなれになる友人、輝人はこう言った。 ――俺は、お前の事だけが気がかりなんだ そして、一枚の名刺をボクに手渡した。 『心理カウンセラー』と肩書きがあった。     
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