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黒く陽に焼け、でっぷりと太った店主ががなり立てる相手に目をやれば、色白の華奢な背中が見えた。頭の上でまとめ髪にしているところから、勝手に女かと思っていたが、よく見れば男性用のトーガを着ている。中性的な顔立ちには少年っぽさが残っていた。
青年は怒鳴られているというのに、パンを片手に、不思議そうに店主を見上げている。
「金はない」
平然と答えた青年の声は少し甲高く、細い体つきとあいまって、彼をより中性的にみせた。
店主はため息をつくとパンを取り上げて青年の肩を押し、追い払うように手を振る。そこでようやく自分の失態を理解したのか、青年の白い肌がうっすらと色づいた。
「そう邪険にしたらかわいそうじゃないか。金勘定も分からないなんて、ちょっとアタマが足りないんだろ。ほら、あんたも早く家に帰りな」
隣りの宿屋の前で客引きをしていた女が、見かねて間に入る。女は男たちの気を引くために下着同然の薄着だ。それを青年は目を丸くして見ている。女の肌を見慣れていない様子が滑稽で、怒っていたはずのパン屋の主人まで笑みを浮かべた。
女に背中を押された青年は、肩を落として坂道を下っていった。ジャムシードの目の前を通り過ぎる際、彼のつぶやきが耳に入る。
「金貨の一枚も持ってくればよかった」
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