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1 吟遊詩人
大陸南部の大半を治める国、マザーヒルズ。
その西の端、山脈を縫う道の途中にあるのが、グィネ関所である。
ここに駐在するのはマザーヒルズの国境警備隊だ。昔に比べて旅をする人間もごく限られるようになった現在、基本的には顔なじみの商人や傭兵と何度も何度も顔を合わせるくらいしか仕事のない兵士たちが、うんざりするほど忙しくなる時期というものがある。
それは五年に一度、天に異変が起こる春。
その日グィネ関所に顔を出した男は、兵士たちの歓声をもって迎えられた。
というのも、
「食料と物資が到着したぞ~!」
見張り番の関所の兵士は男というより、男が引き連れていた一隊を見て、そう声を張り上げる。
関所の各所から喜びの声が上がり、兵士たちが飛び出してきては、待ち焦がれていた物資輸送隊に駆け寄ってくる。
「物資輸送お疲れ様です、オルヴァさん!」
兵士の一人が、輸送隊の先頭に立つ男に敬礼をした。
ん、と男は軽く手を挙げて応じる。
「被害状況は?」
「ご報告した通りです。重傷者三十一名、死者七名であります」
「あれから増えなかったか。正直なところ、よく持ちこたえたな」
「はい。グランウォルグからも人が来ておりますので」
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