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そうだったな、と男は鋭い目つきを細めた。
「西のお客人たちは、今どこにいる?」
「ちょうど食事時ですので、厨房にいらっしゃいます」
「厨房? 食堂じゃなくてか?」
「はい。丁度ユード様がいらっしゃいまして」
「………」
男は少し間を置いた。はきはきと返答する、敬礼姿勢のままの兵士を見つめる。
彼らの背後では、他の兵士たちと輸送隊が一致団結して次々と物資を関所に運び込んでいる。何しろこの関所に、本国からまともに物資が届くのはひと月ぶりだ――誰もが、顔を輝かせている。
「……ユードが来ているのか」
「はい。つい二日ほど前に到着されまして」
「そうか。確か冬の終わるころにも一度来たと思うが……あいつもマメだな」
「はあ。私共の労をねぎらいたいとおっしゃられて」
「ありがたい気遣いだ」
ええ、と兵士はことさら笑顔でうなずいた。
「ユード様の唄は本当に素晴らしゅうございます。我々一同、毎回聞き惚れております」
「まったくだ」
男は――オルヴァという名の彼は、目の前の若き兵士を微笑ましげに見る。
「俺も、やつの唄は気持ちがいいな。やつの生まれは知らんが、どことなく俺たち南部の匂いがする」
「そうですね!」
清々しいほど即答を返す兵士を、男は感慨深く眺めた。
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