愛して、先生

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「結局名前で呼びやがって・・・」 いずれ、彼にもわかるときがくる。 ―笑顔など、見せるべきではないということが。 今日の授業が終わると、隣の席の早乙女先生に話しかけられた。 俺がこの学校に転任してきたころ、面倒を見てくださった人だ。 「堀江、今日の夜、空いてるか?」 「はい、特に予定はありませんが」 「ならよ、飲み行かないか?」 一瞬、考え込む。 なぜなら、この手の誘いはすべて断っているからだ。 酒を飲みながら会話をしたところで、何かが得られるとは限らない。 それならば家に帰り、自由な時間を過ごしたほうが良い。 「申し訳ございませんが・・・」 「いや、お前が飲み苦手だって言うのは知ってんだよ!ただ・・・」 「ただ?」 「なんか藤原が相談あるとかで、俺たち二人に聞いてほしいって言うから」 なるほど、藤原先生が。 確か、彼がこの学校に勤めて、約1年。 もしかしたら、もう時期が来たのかもしれない。 「わかりました、では少しだけ」 「そうか、ありがとよ!藤原も喜ぶぜ、きっと」 早乙女先生は俺の背中を力強く叩く。 いわゆる、体育会系のノリというやつだ。 「あ、戻ってきた。おーい、藤原ー」 早乙女先生が席を立ったのを見計らって、 振動でずれた眼鏡をかけなおす。     
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