その矢印の向かう先

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[22:02]コンビニ店員 佐藤の場合 あのクシャッとした笑顔、たまらないなぁ。 やっぱり鈴木くんには癒される。二十二時までのシフトのときは一つ年下の鈴木くんと交代になることが多いから嬉しい。彼にとってはただの挨拶かもしれないけど、あの笑顔で「お疲れ様です」なんて言われたら疲れなんてふっとんでしまう。私はそれを楽しみに働いていると言っても過言ではない。だって就活が始まったらバイトは難しくなるし、期間限定のささやかな楽しみだ。 でも本当に見てるだけ。同じ時間にシフトに入ることもなかったから会話らしい会話なんてほとんどしてないし、せいぜいこうやってバックヤードからチラチラ見るしかできなかった。 そして皮肉なことに、彼を見ているせいで気付いてしまった。鈴木くんはレジに立っている時、ひとりのお客様を眺めていることに。今日も来ている、窓際の雑誌コーナーに立つカジュアルなスーツを着た美人さん。 鈴木くんの知り合いかと思ったけど、接客の様子を見ていると顔見知りではないようだった。おそらく彼はあの人のことが好きなのではないかと思う。私も同じように彼のことを眺めているから、なんとなくわかる。 彼は友人も多く、モテるんだろうなと思っていた。あんな無邪気な笑顔を見せられたら、誰だって幸せな気持ちになる。きっと、あのクールそうな美人さんもレジで鈴木くんに癒されているに違いない。 あんな美人に敵いっこないんだ。私は今まで誰とも付き合ったことがないし、おそらく彼のタイプでないこともわかっている。別にいい、私は見るだけで十分だから。
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