夏に聞いた、冬の日の君の話。

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夏に聞いた、冬の日の君の話。

少し分厚めの衣の上に、てかてかと光る脂。 僕の手の半分くらいの大きさをしたフライドチキンに、ハルはしゃぶりついた。 カリッと、良い音。 ハルは頬を膨らませて口の中の鶏肉その他小麦粉等を噛み砕く。 黙ってその様子を見ていると、ゴリッバリッなんて音まで聞こえてきた。 僕の手の半分の、そのまた半分にまでなったチキンを見ると、ささくれた骨が飛び出していた。紫色のポロポロしたもの(骨の中身だ)まで見える。 「あの、もしかして今、骨、食いました?」  そう聞くと、ハルは口の中のものを飲み込み、オレンジジュースを一口飲んだ。 それから、何か言った? と首をかしげる。 髪の毛と、左耳のジャラジャラとしたピアスが揺れた。 「えっと、骨。食べて。大丈夫ですか」 「よく噛んだし。なあ、身体に悪そうなもんて、なんでこんな美味いんやろね」 「あれですよ。あの、アミノ酸等、ですよ」 「かなあ。でも成分表とかついとらんから、確かめようがないな」 「うん、まあ、そうですねえ」 食品添加物なんて、食べれば大体味でわかる。そしてここのフライドチキンは、確実に添加物まみれである。 そう言ってしまいたかったが、黙っておいた。自分の大好物に添加物が入っていることを教えられて喜ぶ人なんていない。 世の中には知らないほうが良いこともあるのだ。情報を得たものは、それを提示するタイミングを見計らう義務が発生すると、僕は思っている。 「でも先輩。また、なんでわざわざ持ち帰りにして、学校まで戻ってきたんです」 「あそこの店内落ち着かんの。鏡張りにしてあるし」 「それは同意です。店内を広く見せるためらしいですけれど」 「広く見えたところで、誰が幸せになるんやろねえ」 ハルは物事の価値を、誰かが幸せになるか否かで決める傾向がある。 例えば、映画は人を楽しませて幸せにする。だから存在して良い。 でも戦争は誰も幸せにならない。だから存在してはいけない。 ハルらしい。 わかりやすくてはっきりとしたルールだ。
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