夏に聞いた、冬の日の君の話。

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僕は自分の分のフライドチキンを紙袋から取り出す。 僕がそれを食べている間に、ハルは鞄から煙草を取り出し、火をつけた。白い煙が空気中に散り、ハルは顔をしかめてそれを手でかき混ぜる。 喫煙者でも副流煙は煙い、とハルは以前から僕に何度か愚痴っている。 それを聞くたびに禁煙したらいいのにと思い、そして同時に、たぶん無理なんだろうと自己完結する。 「あかんなあー、身体に悪いものは、やっぱり美味い」 「そんな美味いもんですか、煙草」 「最初の一口二口は美味い。あとは惰性やな。もったないから吸う、みたいな」 「本当に惜しむべきは、失われつつある、健康ですよ」 「もったいないわあ。うちの健康。かわいそうにかわいそうに」 まったく心のこもっていない『かわいそう』を聞きつつ、僕は自分の手をウェットティッシュで吹く。 自分の残した食べかすが、ハルのものと比べて随分と汚いことにそこはかとなく落ち込む。 僕が食べ汚いわけではなく、ハルのチキンへの強い執着心がこの結果なのだろう、そう思いたい。 「あかん。アキが食ってんの見てたら、また食べたなった」 「たぶん、そう言うと思いました。一つ余分に買ってます。どうぞ」     
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