書けない履歴書

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書けない履歴書

――柚木(ゆずき) 有里香(ゆりか)  自分の名前を書いただけで手が止まる。  涙があふれて、履歴書をぬらしてしまう。  これが三枚目だ。なぜ、自分が履歴書を書かなくてはならないのだろう。なぜ、自分が会社を辞めて、新しい仕事を探さなければならないのだろう。  悔しいやら情けないやら、いろいろな感情が心を支配して、一向に履歴書は仕上がらない。  部長に、今回の事は懲戒対象だが、今後の就職活動に響くだろうから、自己都合退職としてあげようと言われた時、なんて都合の言い事を言うのだろうと思った。  従業員を解雇する事は会社としてマイナスになるから、自己都合で辞めろと言えば良いではないか、でも、そんな事言われなくてもこっちから辞めてやる、こんな会社にいてやるものか! ……と息巻いた事もあった。  でも、今は、ただ悲しい。  いつも相談に乗ってくれていた先輩から、俺の口利(くちき)きで採用してもらえる所を紹介するから、履歴書だけ持って来いと言われたけれど、履歴書を書くのがこんなに大変な作業だとは思わなかった。  気持ちの整理が付いていないからだと客観的な自分が言っている。でも、整理なんか、付かせようがない。こんな理不尽な事にどうやって整理を付ければ良いと言うのだろう。  全部あの人――いや、あの男のせいだ。
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