第8章 この章では、名探偵が招聘される

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 松田とは顔なじみらしい店主が示した先に、見たことのある横顔があった。  進藤だ。  ミニチュアセットのような小さな椅子に座っている。彼の体格にあっていないようだ。彼が座っているものだけでなく、全ての椅子やテーブル、テーブル席に備え付けられたソファーはかなり座高の低いものだった。  この店は随分昔に建てられたもので、そのころの日本人の体格に合わせて造られたのだろう。  進藤はイヤホンで音楽を聞いていて、三人の来店に気づいていなかった。音楽を聞きながら、この暑い日にも関わらずホットコーヒーを飲んでいた。格好も変だ。白いシャツの上に、どうみても春か秋に着るようなグレーのショートピーコートを羽織っている。パステルカラーのチノパンは足首まであり、例のボロボロのトイレ用としか思えないサンダルをつっかけているのが、唯一夏らしい点だった。  松田が彼の肩を叩くと、振り返った。  ようやく三人の存在に気がついて、イヤホンをはずして「やあ」と言った。挨拶にしては随分雑だった。 「何を聞いていたんだ」  松田は進藤の隣に座り腰を落ち着けてから問いかける。梓と行雄の兄妹は対面のソファーに揃って座る形となった。 「聞いてみるか?」  進藤がイヤホンの片方を松田に差し出した。
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