奇妙さ、それは奇妙だ

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奇妙さ、それは奇妙だ

 それが何であったかを知る術はもうない。記憶の中だけの物語になってしまったから。あるいは、夢の中の記憶なのかもしれない。でも、その時の僕は確かに体験をしたし、そこから得るものだってあった。失ったものもあった。 「人生とは、なんて語る人間の大半は詐欺師だ」  その言葉の意味も、今なら分かる。よくよく分かる。まだまだ少年の僕がそう思うのだから、世間というのは案外、簡単に出来ているのかもしれない。 「世間を語る人間の大半は、大嘘吐きだ」  確かそんな言葉もあったから、僕は嘘吐きなのかもしれない。  そうなのだ。嘘かも知れない。でも確かに僕はそこに行ったのだ。迷い込んだのだ。だから、その話を聞いて欲しい。つまらなそうだなんて言わないで。物語の大半は、出だしが肝心だと聞くけれど、僕はそこまでの話術はない。ストーリーテラーには、なれない。紡げるのはせいぜい、自分の身に起きたことだけだ。  それは、嘘かも知れない本当の話で、場合によっては本当かも知れない嘘の話で、聞く人によっては、嘘かも知れない嘘の話で、もしかしたら、本当かも知れない本当の話なのかもしれない。     
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