第四章 二人だけの儀式

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「なッ、なんだ、これは!」  驚いて、キギスがアトリの戒めを解くと、炎が消えた。アトリが、体を隠すようにして、身を離す。 「なんなんだ、今のは」  体の痛みに耐えながら、キギスが言った。 「神の怒りだ、キギス」  肌を隠すように、衣を集めながら、アトリがきっぱりと言い放った。 「なん……だと」 「私は既に伴侶を定めた、私の男も、私も、神に守られている、その身、お前の自由にはならんッ!」  キッ! と、きつい眼差しで睨みつけるアトリに、キギスは言葉を失った。 「そう……か、そうだったのか……」  キギスは、がっくりと肩を落とし、その場にぺたりと座り込んだ。  毒気を抜かれたように、キギスは呆然として、アトリを見た。 「やっぱり、お前は、イカルと……」  打ちひしがれるキギスは、心から落ち込んだ様子で、アトリを不安にさせた。  先ほどまで、自分を犯そうとしていた男だが、キギスは幼なじみなのだ。共に育ち、遊んだ、兄のような、弟のような存在。キギスが憎いわけでは無い。しかし、受け入れられるかどうかは、また別の話だ。 「……すまない」
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