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僕が初めてパンナコッタと出会ったのは、大学の片隅だった。
その日はとてもよく晴れた春の日で、だから彼女の持つショッキングピンクの傘がよく目立った。
僕は教授に頼まれた資料を届けるために、研究棟へ向かっていた。
春はキャンパス内のいたるところで、新入生たちを捕まえようと舌なめずりをしながら勧誘しているサークルが多い。
僕はお昼の混雑を避けようと裏道を使っていたのだ。
そこで、彼女を見付けた。
春空の下、彼女はベンチに座って空を見上げていた。
木漏れ日が彼女の横顔に降り注ぎ、僕は今まで自分が彼女の顔をきちんと見たことがなかったことに初めて気が付いた。
パンナコッタは、僕の所属する文学部で一番有名な女の子だった。
ヨーロッパのどこかの国と日本人との子どもである彼女は、やはり生粋の日本人よりも端正な顔立ちと、そして緩やかにウェーブを描いて背中に流れ落ちる綺麗な稲穂色の髪の毛を持っていた。
それだけでも、十分に目立つ人物ではあったが、それ以上に彼女に纏わる悪い噂が彼女を悪名高くさせていたのだ。
パンナコッタは、その綺麗な顔で多くの男を弄んでは、毎夜、人のいなくなった夜道に捨てて高笑いをしながら去っていく、らしい。
極めつけは、彼女の奇抜なファッションスタイルだった。
白地に紺色のストライプ柄が入った作業着と赤い伊達メガネ、そして手にはショッキングピンクの傘。
三年間で一度もそれ以外の格好をした彼女を僕は見たことがない。
今日みたいにどれだけ空が快晴でも彼女は傘を持ち歩いている。
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