回り道要請

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回り道要請

 オフィスビルに出社し、いつものようにエレベーターに乗り込もうとしたら、点検中ということで、三基総てが使用停止になっていた。  四階まで階段使用か。疲れるし面倒この上ないが、エレベーターが使えない以上、そうする以外に移動の手段がない。  奥まった所にある階段をとぼとぼと上って行くと、三階に着いたところで立ち入り禁止の立て札に出くわした。  見れば、こちらも『点検中』らしく、建物の真反対にあるもう一つの階段を利用してくれと書いてある。  遅刻をしそうな時刻じゃないが、とことんまで面倒くさい。  だいたい、エレベーターならともかく、階段の点検ていうのは何だ? 多少の破損箇所があったとしても、横をすり抜けて通るくらいできるだろうが。  反対側まで行く気にならない。どうせ後一階分。人もいなさそうだし、ちょっと横をすり抜けさせてもらうとしよう。 * * * 「エレベーター、使えないのかよ。仕方がねぇなぁ」 「階段も途中で封鎖? 向こうまで行くのか…面倒だけどしょうがねぇか」 「おはよーございまーす。はーもう、朝からへとへとっスよ。出勤時にエレベーター点検とか、勘弁してほしいっスよね」 * * * 「おい。○×は今日も来てないのか?」 「ええ。携帯には何度もかけてるんですけど、まったく繋がらなくて」 「今日でもう五日目だぞ? ご両親の方には?」 「連絡は入れてあります」 「そうか」 「○×さん、今日も連絡取れないんですか? じゃあマジで、五日前の出勤時に俺が見た後ろ姿が最後?」 「お前、見かけてたのか。どんな様子だった?」 「どんなって、普通だと思いましたけど。といっても、点検で止まってたエレベーターを諦めて、奥の階段に向かってく後ろ姿を、エントランスに入ってきたばかりの俺が、チラっと見ただけの『普通』なんで、表情とかは判んないスけど」 「点検? エレベーターの? そんなのしてないぞ?」 「え? でも、五日前、確かに…」 「……○×さん、どこ行っちゃったんでしょうね…」 回り道要請…完
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