プロローグ

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 見た目の姿形はともかく、その人形のまとう雰囲気や、人相、とでもいうべきものが、明らかに歪んでいた。少なくとも、包みを開いた子供には、そう見えた。そのため、人形を見て受け取る印象が、可愛らしさを感じるどころか、暗く重いものにしかならない。むしろ飾っておくだけで、こちらまで憂鬱を通り越して不安な気分にさせられそうだった。  とりあえず人形を風呂敷で包み、テーブルから降ろした。それで、と相手の女性に水を向ける。 「この人形を、どうしてうちに持ってきたんでしょう?」  それは……と口ごもったセリフを、あえて急かしたりはしなかった。言い難いことではあるが、言ってもらわなければ話が進まないのだ。それには、待つしかない。やがて意を決したように、女性は顔をあげて、まっすぐに相手の目を見つめた。きゅ、と唇が結ばれる。 「その人形が、『動く』んです」 「……なるほど」  少し考えるようにちょっと目をそらしただけで、あっさりと頷かれたため、逆に女性の方が拍子抜けした表情になる。 「あの、納得、されちゃうんですか?」 「でも、あなたは人形が『動く』ところを見たんじゃないんですか?」  問い返されて、困ったように首を傾ける。しばし沈黙してから、何かを思い出すようにゆっくりと答えた。 「はっきり見た、ってわけじゃないんです。ただ、立ち位置がちょっとずれているような気がしたり、髪形が崩れているように見えたり……気のせいかもって思ったりも、したんですけど。どうしても、この人形が怖くなって」 「それで、誰かに引き取ってもらおうと思った?」     
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