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ねえ、おじさん。
聞き慣れぬ、女の声が聞こえた。
「寝ちまったか」
直ぐにここが電車内にいる事と、その見知らぬ女の親切は理解できた。
「次、木更津の駅ですよ、寝過ごしちゃいましたか」
隣に座っていた女が、俺を覗き込んで言った。
化粧はしているものの、浮いた感じ、学生と言えば通る見た目と、あどけなさを残していた。
「ああ、ありがとう、起こしてくれて」
けれども、時既に遅し。まさか木更津とは。
下手すると、上りの電車は終わっているかも知れない。ここからタクシーで家まで、いったい幾らかかるのだろう。二人だけの車両に、大きな溜息を漏らした。
「あの、もしかして、帰れなくなっちゃいましたか」
不自然に俺の隣に座っている、その娘が愛想良く言った。
「あん」
馴れ馴れしいと言うか、よほどのお人好しなのか、こんな酔っ払いを気にかけてくれるだけでも、変わった女だと思った。
「もし、朝まで時間をつぶすなら、私つき合っても良いですよ」
「…は?」
最初、何を言っているのか分からなかった。
言葉だけ聞けば、優心からくる、気遣いなのだろう。
「始発を待つなら、駅の側に朝五時までやってる居酒屋、私知ってますし、ファミレスもあります」
女は淡々と続けた。
「おじさんが良ければ、ホテルでも、良いですよ」
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