あの空が落ちてくるまでの四日間

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 トルコ石のような色をした澄み切った青空がどこまでも世界を覆っている。空がなぜ青色なのかと問われたとき、ほとんどの人が海の青が反射しているからと答えるだろう。海が青いのは、青以外の色が海という巨大な怪物に飲み込まれ、吸収されてしまうからだ。青だけは何ものにも囚われず、自分の存在を主張する。だから、海も、空も、青い。  もし、空の青が、同じ色のトルコ石を敷き詰めたものであるなら、私たちの暮らす地球にはトルコ石の天井があり、宇宙に出ることは叶わないだろう。ミサイルが飛べば天井にぶつかり、空は砕け、地上に落ちてくるかもしれない。  青は強い。何にも染まらず、海にも吸収されず、むしろ海や空のような大きな存在すら染め上げる。自分の色にしてしまう。  私の夫は名を(はる)といった。私は彼のことを親しみを込めて“あお“と呼ぶ。  青は強い。私という存在も、青に染められ、青を愛してしまった。  そんな青は、私とまだ幼い娘を遺して空へと逝ってしまう。強かったはずの青は、それでも重さを数える単位がトンを超えるほどの鉄の塊が、彼の愛車ごと滅茶苦茶に()し潰してしまったのには耐えられなかった。強かった青は、青の似合う空へと、別れを言うまもなく旅立った。  青の遺してくれたものは、四歳の娘の里穂と、青が染めてくれた私の心。それと青がもしもの為に加入していた保険金、事故の示談金だけ。青との未来は忽然(こつぜん)と消えてしまった。  人生にタイムカードがあるなら、示談金と保険金は青の働きから算出された給料になるのだろうか。人の命はお金で買えない。私はそう思っている。  本来なら天国で暮らすために支払われるであろう給料。青は、それを遺された私や娘の為に置いていった。今頃、青は天国でどんな暮らしをしているのか。  青はそういう人だと知っているからこそ、天国で貧しい暮らしをしているのではないかと思ってしまう。遺されたお金、願うことなら彼に返してあげたい。けれど、そんな手段はない。  お金に限らず、青は多くを与えてくれる人。結婚する前も、してからも、どこかに行ってしまっても、青のそういう所は変わらない。だから惹かれたんだ。
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