そこに女がいる

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そこに女がいる

 帰宅途中根どうしてもトイレに行きたくなり、近くのスーパーに立ち寄った。  真っ直にトイレへ向かい、空いていた手前の個室に飛び込んで用を足す。一息ついて出て来た時、一番奥のトイレの前に人が立っているのが見えた。  トイレ内に個室は四つ。一番奥は今誰か入っていて、手前は私が今まで入っていた。でも間二つは開いている。なのにその人はどちらにも入らず、一番奥の扉の前に立っている。  確か一番奥のトイレは、子供用の便座があったりヘビーシートがあったりする広い個室だ。でも待っている人は子連れでも何でもないから、そこを利用する必要性などなさそうだ。  単純に、変な人だなと思ってその場を離れ、せっかくスーパーに寄ったのだからと食品売り場を物色していたのだが、その時、鞄につけているジッパーチャームがなくなっていることに気がついた。  多分、慌ててトイレに入った時、引っかけるなりしたのだろう。そう思い、急いでさっきのトイレに向かった。  幸いにも、誰か拾ってくれたらしく、洗面台の上にジッパーチャームは置かれていた。  床に落ちたものだからと、ざっと水洗いをし、ハンカチで水気を拭きとる。その作業途中、いまだに奥のトイレの前に人が立っていることに気がついた。  どう見てもさっきの人だ。その人がずっと個室の前に立っているし、奥の個室も閉じたままだ。  立ってる人と中の人は知り合いで、扉越しに話でもしているのだろうか。それにしては喋り声などは一切聞こえてこない。  中の人は立ってる人の知り合いだけれど、友達ではなく、何か因縁をつけようとしている。だから中の人は出られない。ふとそんな考えが私の中に湧いた。  それなら執念深くあの人が立っているのも、いまだに奥の個室が閉まったままなのもうなずける。でもその場合、私が口を挟んでいいものなのかどうか。
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