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迷っていると、出入り口の方から『こっちです』という声が聞こえた。
振り返ると、高校生くらいの女の子が年配の店員さんを伴ってトイレに入ってくるところだった。
聞こえる二人のやりとりは、まさしく私の懸念そのものだった。
どうやら女の子が立っている人を不審がり、店員さんを呼んで来たようだ。
「あの、そこで何をしてらっしゃるんですか?」
店員さんがそう声をかけると、女の人はこちらを見もせず無言で片手を上げた。その手をトイレの扉に押しつけ、そして…。
「?!!!!!!」
私と女の子、そして店員さんは、揃って声なき叫びを上げた。
今の今まで奥の個室前に立っていた女の人が、扉に手をつけるなり、前のめりにその戸の中に消えていったのだ。
トイレの扉は閉まったままだ。でも確実に今、女の人はいなくなった。
何が起きているのか判らず、三人でその場に立ち尽くしていたが、私が一番最初に気を取り直し、店員さんに提案を告げた。
「あの、失意なことだとは思いますけど、上から、中、覗いてみませんか?」
その言葉に、二人が『それしかない』という表情になる。
店員さんがトイレの外に駆け出し、暫くして脚立を運びこんで来た。
私と女の子でそれを支え、上った店員さんが上からトイレを覗く。それと同時に、頭上から凄まじい悲鳴が響き渡った。
よろけて落ちそうになる店員さんを何とか二人がかりで支えている間に、今の悲鳴を聞きつけて、外から何人もの人が駆け込んで来た。
何があったのかを尋ねてくるが、中を見てない私と女の子はそれに答えられないし、店員さんは口をパクパクさせてトイレを指差すばかりだ。
脚立がそのままだったので、他の店員さんがそこによじ登り、中を見るなり最初の人同様の悲鳴を上げた。でもそちらの店員さんの口からは『中が血だらけで人が倒れている』という言葉で出て、すぐに扉はこじ開けられ、救急車や警察が押し寄せる騒ぎとなった。
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