そこに女がいる

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 幸いにも、私は血まみれの現場を見なかったけれど、最初に個室を覗いた店員さんが弱り切って病院へ運ばれてしまったので、高校生の女の子と一緒に警察の事情聴取を受けた。  自分が店に来たおよその時間。その時から奥の個室は閉まっていて、ずっと扉の前に女の人が立っていたこと、その人が扉を通過するように中に消えたこと、中を見たのは店員さんだけだったことを色々話し、とりあえずこの日はこれで帰っていいということになった。  それから何度か警察の人が訪ねて来て、あの日のことを聞かれたり、何人かの女性の写真を見せられたりしたが、どうにも有力な手掛かりはなかったらしく、やがて警察の人は訪ねて来なくなった。  亡くなった方の写真を見せてもらったが、あの日、扉の外に立っていた女性とはまるで違う人で、もしや本人の幽霊が、自分が死んでいることを教えたくてあそこに立っていたのでは…という考えはあっさり否定された。  事件から一年程が経ったある日、一人の女性が家を訪ねてきたのだが、その人を見た瞬間衝撃が走った。はっきり顔を見ていた訳ではないが、その人はあの時トイレの扉の前に立っていた人だったのだ。  相手が何者なのかを訪ねると、あの時亡くなった人の妹さんだと女性は名乗った。そして、お姉さんを殺した犯人が逮捕されたと話してくれた。  私はあの日以来、あのスーパーには寄りつかなかったのだが、一緒にいた店員さんと女の子が、扉の前に幽霊が立っていたという話を広めてしまったらしい。でもその噂が広まったおかげで犯人が動揺し、半ばノイローゼ状態で警察に自首してきたそうだ。  関係者の方にはゼヒきちんとお礼がしたいということて、あの場にいただけの私すら訪ねてくれたということだった。  妹さんはお姉さんの事件があった時、用事で遠方に赴いていたそうだが、あの時トイレの前に立っていたのは確かに彼女だった。
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