【第三章:風の狩場とカルマの谷 四】

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「初対面の相手に失礼ですよ、マヌル様」  入り口の方で、やや溜め息まじりだが耳に心地よい声がした。 「マイ・サン!! マイ・ブラッド!!」  その途端、スズのことは放り出して、カラフルなミノムシこと『マヌル様』は見た目からは想像もつかない速さで声の持ち主、ブラッドの元までジャンプし、捕まえて抱きしめていた。  ちなみに地球で猫や犬がよくやる、鼻同士などでお互いの相手の匂いを嗅ぐのは、ネコタミたちにとっては『原始時代の挨拶』らしい。  初対面の相手を匂いによって敵か味方か判別するのは、マナー違反という常識があり、するとしてもごく親しい相手に室内等、あまり人目のつかない場所でするか、親しくなった相手に対して別れ際に『互いの匂いを忘れないように』とするのが一般的だそうだ。  これを俗に『ハナチュー』という。  ブラッドは今、そんな『ハナチュー』をマヌルから「他人行儀はよしなさい、お父さんと呼びなさい、息子よ!!」と、耳の付け根あたりにフンフンと一方的に受けていた。 「あの子は産まれた時から魔力が強かったから、いずれ私たちと離れて暮らすことが運命付けられていたんですよ……」  二人を見つめながら、ブラッドの母であろうウルルという女性が涙ぐんでそう言った。 「あんまり魔力が強い人たちが一箇所に集まって暮らしてるとね、そこも魔境化しちゃうって言い伝えがあるんだって。  魔境に近い場所ほど信じられてるみたいだけど、ボクにはホントかどうかは分かんない」  ギンコがスズにこっそりと耳打ちした。 「私に魔力があろうがなかろうが、確実に家は出てました」  マヌルから離れるように出来るだけ首を傾けて、ぐぐぐ、ともがきながらブラッドはつぶやいた。 「これだから実家に帰るのは嫌なんだ……」
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