【第三章:風の狩場とカルマの谷 一】

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  「今日も空は青い鳥でいっぱいだねぇ」  ギンコがハンモックの上で寝転んだまま、軽く伸びをして言う。   「え、そうなんですか?」  ハンモックが吊るしてある木の斜め下、木陰の縁台に座っていたスズは、練習していた小さなギターとハープがセットになったような、『アムドゥス』という木製の楽器から目を離し、空を見上げた。  風はやや涼しくなったが、木漏れ日は暖かい。  手で影を作ってしばらく空を凝視してみたが、スズには雲一つない青空しか見ることができなかった。  ハチワレ・ブラック号の屋上はそれなりの大きさの木も植えられた、鳥たちの憩う水と緑の豊かな庭園になっている。  昼食後の休憩時間や自動車として移動中の時など、天気の良い日は皆がここに集まることも多かった。  そして今は昼食後の移動時間だ。  こういう時にはスズは大抵、こちらの世界についての常識や、簡単な手品やジャグリングなどのサーカスの芸、楽器や眠虎の世界の歌などを教わっていた。 「違う違う、それ、お兄ちゃんの口癖なの」  フーカがほんの少し片眉を上げ、イヤホンを外しながら苦笑して言う。  彼女は屋上庭園の真ん中にある噴水の(ふち)に腰かけ音楽を聴いていた。  噴水の飛沫(しぶき)がキラキラと日の光を反射し、フーカの赤い髪飾りを輝かせている。  公演のない日は皆、ギンコ以外は大抵色のついた着物のような普段着を着ており、それもまた彼女に良く似合っていた。今日のは桃色だ。  スズも似たようなデザインの青の着物を着ている。  噴水の中央には水晶のような石で出来た、一抱えもある巨大な睡蓮の花があり、水はその花びらの一つ一つから溢れるように流れていた。  花びらは上部から透明感のある黄色、黄緑、そして水色へと美しい色のグラデーションで彩られている。  その花の中央には摩尼(マニ)宝珠という、大きな水滴がそのまま固形化したような形の、水のように透き通った水晶が置かれていた。  これは空気中から水分を集め水にする貯水槽であり、浄化して飲料水として使うための水道でもある、『摩尼睡蓮』という物なのだそうだ。
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