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どういうことだろう。
大規模な整備事業みたいなものがあって、あのさびれた通りは、なくなってしまったのだろうか?
私は動画を見るのはやめて、マップを調べてみた。以前の住所はうろおぼえだったけれど、○○○寺の周辺を出せばいいのだ。
すると、遊歩道は簡単に見てとれたが、裏通りは影も形もないのだった。その周辺にあったはずの古い町並みも・・・。
そのあたりは、大きな公園になっているようだ。観光地に、いかにもふさわしいような。
「そうか。なくなっちゃったのか・・・あのあたり」
私はそんな独り言を呟いていた。おばあちゃんの家は、とっくの昔に整理していたし、愛着の抱けない土地ではあったけれど、それでも寂しさに似たものが頭をよぎる。
「ごはんよ」
階下から、母の声が響いた。私はスマホを持ったまま、部屋を出て階段をおりた。
食卓の椅子には、もう父が座っていた。
私は父に向って、何気なく言ったのだ。
「ねえ。今、スマホで調べたらね。おばあちゃんの家があったあたり・・・みんな、なくなったみたい」
「誰が亡くなったって?」
読んでいた新聞を折りたたみながら、父は私にたずねかえす。
「誰かが死んじゃったんじゃあなくて。おばあちゃんの家のはなし。ほら、あそこ、汚い川があったでしょ? ドブ川っていうか。アレがね、きれいな遊歩道になっていて。それで、家があった裏通りは、いつのまにか大きな公園になってるの。いつのまにか」
父は、かけている眼鏡を指で押し上げた。
「ちょっと待て。おばあちゃんって、俺の母さんだよな。あそこの家がなくなったって?」
「もちろん、そうよ」
「そんなはず、あるものか。ちゃんとあるよ。変な冗談はやめなさい。それよりも、ほら、席について」
教師をしている父は、いつもこんな教師口調でものを言うのだ。私は、この口調もあまり好きじゃあない。
「何を、言い争ってるの?」
料理を持ってきた母が、笑顔で会話に加わる。食卓の上で、食器がかちゃかちゃ、かすかな音をたてる。
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