一、山崎K子との出会い

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一、山崎K子との出会い

   私がまだ刑事課に配属される前、警官だった頃の話だ。  その頃、私は留置所管理官という役職に就いていた。これはいわゆる、留置所における看守の役割で、刑務官と区別するために「担当さん」と呼ばれていた。  元々、留置所というのは刑事課の管轄だった。しかし二十四時間自由に取り調べができてしまう、被疑者にとって劣悪な環境は、無理な自白など冤罪を生み出す温床となっていて、そのことが問題視されてからは新しく部署が設立され、総務課系列の管理下へと移った。    しかし留置所と刑事課の癒着が完全になくなったわけではない。「担当さん」となるのは基本、身体を壊すなどして前線に立てなくなった人間、あるいは刑事課配属直前の若い警官である。もちろん、被疑者の人権が損なわれるようなことは行われないが、もし「担当さん」に気を許して何か事件について漏らすようなことがあれば、それは直ぐ様、刑事課に知らされることとなる。  私はそんな環境下で、刑事になるべく、犯罪者の心理というものを学んでいった。まだ容疑段階ではあるが、犯罪を起こした人間というものは実に様々だった。いかにも犯罪を起こしそうな危うい目付きの人間もいれば、一見、聖人のように見える者もいた。そしてあくまで留置所というのは取り調べが終わるまでの仮宿であり、判決が下るのを待つ拘置所、刑が執行される刑務所などと違い、収容者の入れ換わりが激しかった。  そのため実に多くの人間が現れては去っていったが、その中でもやはり印象深い出会いというものがいくつかあった。山崎K子も、そのうちの一人だった。  もちろん、留置所は男女で区画が別れており、私は男性被疑者を相手にすることが多かったが、それでも女性被疑者の収容区画で仕事をすることもあった。内容は簡単な監視だ。例えば、被疑者には毎日、天窓のついた部屋での運動が認められていた。と言っても、できることといえば、喫煙と日光浴くらいだったが、暇そうにうなだれる被疑者を見張る私に、山崎K子は留置されていた数ヶ月の間、よく話しかけてきた。  ベテランの管理官であれば、構わず無視をしただろう。しかし当時まだ新米だった私は、何か事件について聞き出せるのではないか、それを上に報告すれば自分の手柄になるのではないかと、また自身の退屈もあって、しばしば彼女の相手をした。
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