序章 魂は語る

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 すると高祖は極めて不機嫌な表情を示したので、私は死を覚悟した。しかしやがて彼は思い直したように私に命じたのである。 「わしのために、秦が天下を失った理由、わしが天下をとった理由を明らかにせよ。そして古来の諸国の成功と失敗のあらましを書にして書き示せ」  その命を受けて、私は当時建国の元勲とされる多くの人物に会い、つぶさに話を聞き、全部で十二編になる書を完成させた。  その書の完成に群臣たちは皆万歳を叫び、高祖自身もその出来具合に感涙にむせんだほどである。だがそれとは逆に、私の心は沈んでいったのだった。  当たり前のことだが、漢は高祖ひとりの意志によって成り立った国家ではなかった。ひとりひとりの雑多な意志が混じり合い、その意志が淘汰された結果が、建国当初の漢であった。しかも意志の淘汰は話し合いによってなされたのではなく、殺し合いによってなされ、そしてそれを主導したのが他ならぬ高祖だったのである。私は調べれば調べるほど、そのことを確信せざるを得なかった。  つまり高祖は自分自身で言うように、やはり馬上で天下をとった男なのであった。私の役目はそれを学問的に正当化することであり、高祖を古代の聖天子と同様の存在に仕立て上げることであった。私は罪悪感に苛まれたが、人臣としての立場上、他にどうすることもできなかった。     
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