プロローグ(上)

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 お手上げだ。せめて差された瞬間に立ち会えていたなら、何が起きているのかくらいは理解できたかもしれない。最悪、電源を強制的に落とすという選択肢もあっただろう。だが、モニターから起きている異常事態のせいでそれは叶わなかった。  端的に言うとモニターから手が生えていた。細く長い指や、あまり筋肉のついていない腕からして、恐らく女性のものだろう。俺が帰宅した時点では指先がわずかに見えていた程度だが、十分足らずで二の腕の中ほどまで伸びていた。それに伴い、今ではモニターの中央から頭頂部らしき膨らみも見え始めていた。自然発光しているのか、まるで蓄光塗料を塗ったようにほのかに白く光っているため、肌や髪の色は分からない。  モニターから人が出てくるなど、悪い夢ではないかと思う。古いホラー映画のようだ。映画では電源を必死に消そうとしていたが、実際に同じ場面に出くわすとあまりの奇想天外さに見守ることしかできない。這い出るようにではなく、ただまっすぐに腕が伸びているため、やや怖さに欠けるというのもあるのかもしれない。 「……ごめん」  何度目かもわからない謝罪の言葉。だがこの場においては、謝罪より解決に結ぶ糸口が欲しかった。神経に異常をきたしているというのなら、解決策がハッキリしている分そちらの方が幾分(いくぶん)もましだ。モニターから人が出る現象について少しの間スマートフォンで調べてみたが、アニメにもなったことがある電脳空間を舞台に生きるキャラクターや、それに類似する作品の事しか分からなかった。USBメモリも――俺の持ち物ではないが――市販されている物で、大きな不具合の報告も見当たらない結局、机から距離をとり、成り行きを見守るしか出来ない自分に苛立ちと焦燥感が募る。 「もう良いよ。それより飯食うか?」 「へ?」  俺の言葉に茉奈が素っ頓狂な言葉を返すが、自分でもどうしてそんな事を言ったのか分からなかった。もしかしたら、自身でも気が付かないほど心身が疲れ切っていたのかもしれない。よく考えれば、アパートに帰ってすぐ事にあたったため、着替えすら済んでいない。腕を生やしたPCを尻目に、クローゼットの方へと向かう。汗に湿ったYシャツを脱ぎ捨て、部屋着に着替えていると、茉奈が俺を呼んだ。
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