氷菓の時間

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ここは可笑しなお菓子屋、風韻堂(ふういんどう)。 私たちの住処のような、職場のような、まあそんな場所だ。 私はこの店を見守る熊のぬいぐるみだ。テディベアとも呼ばれている。 誰が私を作ったのか、いつから私はここにいるのか 全く覚えていないが、それは別にいい。 名前は恐らくない。名づけられた記憶がないからだ。 しかし少し前から店の奴らから「グレッド」と呼ばれるようになった。 グレーの毛とレッドのリボンだからというらしい。実に安直だ。 とはいえ名前がないのも不便なので、とりあえず「グレッド」と呼ばれたら 「何だ?」くらいは答えてやっている。 断じて気に入っているわけではない。断じて。 ・・・コホン、まあ私の話はここまでにしようか。 「あー・・・今日も実に平和だこと。うっし、次弥ー!終わったよー!」 私のすぐ隣で大欠伸しながら専用器具でバキバキと胡桃の殻を砕いていた 赤いシャツに黒エプロンのコイツはこの店の店長だ。・・・一応な。 寝癖そのままの赤茶色の髪をものぐさに掻きながら眠そうな青い目で 店のドアが開かないかなとぼんやり眺めてる。それがこの男のお決まり行動。 なのだが、今は「暇なら手を貸せ」と 洋菓子担当である双子の弟に使われている。 裏のボス命令だ、仕方がない。 カランカラン・・・コロンコロン・・・ 「!」 おやおや、この可笑しな店の扉が軽快に歌い出したではないか。 「これはこれは、いらっしゃい!」 さてさて、本日のお客様はどんな味をご所望だろうね? 私は此の場で見物させてもらうとするよ。
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