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「煩いな。女みたいな事言うなよ」
まだ掴まれていた腕を振り払うと、誠人は光に背を向けて光に引っ張られて来た道を戻ろうとした。
「何処に行くの」
再び強く腕を掴まれる。
「実験室だよ。離せ」
「あの人のところに行くの?」
「あの人?」
「テレンス教授」
「は?」
「僕、あのひと嫌い。あの人、まこちゃんの事狙ってる」
誠人は一瞬言葉の意味が分からなかった。
「行かないで」
懇願するような光の瞳に、誠人は言葉の意味をようやく理解してブチ切れた。
「良いか、確かに俺はお前と航海中は付き合うという事にした。だがな、それは仕事に支障が出ないように、だ。なのにお前は今何をしている? 俺の仕事の邪魔じゃないか。俺が実験室に行くのはライアンに会う為じゃない。仕事をする為だ。そんな事も分からないのか!」
そうまで言っても、光は誠人の腕を離さない。
「光、いい加減にしろ!」
誠人は大きな声で怒鳴って、腕を乱暴に振り払った。廊下の奥からこちらに歩いて来ていた女学生が、その声にびくっ! と驚いて立ち止まる。
誠人は舌打ちをして口を噤んだ。学生に聞かれたら厄介だ。女学生はちらちらとこちらの様子を伺っているものの、誠人達の方に足を進める事もなく引き返しもしない。
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