夫婦間の隠し事

6/6
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
そう言われると言葉が出ない。覚えてないものは覚えてないのだから仕方ない。 「で、つまりは、静はこのカード見て、静に話してない女が俺にいたと早とちりしたわけね。それで怒ってる。うん、酷い!」 「ごめんなさい」 その通り過ぎて謝るしかない。 「そんなに信用ない?」 「違うけど。でも歌がうまいのに好きじゃないとか、なんかワケありっぽく思えてきて」 「あれは高校の時に喉が枯れそうなほどはっしーにカラオケ付き合わされたから。カラオケはそんなに好きじゃないの。もう少し信じてよ」 「ごめんなさい」 「それに……、俺はボーカルじゃなくてギターだよ、やってたのは」 「へ?」 「バンドのコーラスの練習も兼ねてカラオケ連れていかれたの。俺はバンドは高校でやめたから静には言ってなかったけど。俺が隠してたのは、これくらいだ」 思えば、カードが挟まっていた小説には、かっこいいギタリストが登場するとインタビュー記事で読んだ気がする。 「せっかく内緒にしてたのに。俺の黒歴史」 「えっ、待って、何それ、黒歴史なの? 写真ないの? 動画は? 橋本さんとやってたの? プロ目指してたとか?」 「あー、静はいろいろ知りたがると思ったから敢えて言ってなかったのに」 「え、何、じゃあまだ他にも秘密あるとか?」 「さあね」 「だめ! 夫婦間で隠し事禁止!」 「それなら夫婦間で勝手に早とちりして疑うのも禁止だからね、できる?」 「それは……どうだろう」 今回のことで、隠し事のない夫婦なんていないと改めて知ることになった。 「ところでなんであの小説読もうと思ったの? 俺が勧めても全然だったのに」 「あ、雑誌で好きな俳優さんが絶賛してて」 「夫より俳優かよ、やっぱり酷いな」 「ごめんごめん」 その俳優が地元の中学の先輩だったということは、とりあえずこの先も秘密にしておくとしよう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!