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そう言われると言葉が出ない。覚えてないものは覚えてないのだから仕方ない。
「で、つまりは、静はこのカード見て、静に話してない女が俺にいたと早とちりしたわけね。それで怒ってる。うん、酷い!」
「ごめんなさい」
その通り過ぎて謝るしかない。
「そんなに信用ない?」
「違うけど。でも歌がうまいのに好きじゃないとか、なんかワケありっぽく思えてきて」
「あれは高校の時に喉が枯れそうなほどはっしーにカラオケ付き合わされたから。カラオケはそんなに好きじゃないの。もう少し信じてよ」
「ごめんなさい」
「それに……、俺はボーカルじゃなくてギターだよ、やってたのは」
「へ?」
「バンドのコーラスの練習も兼ねてカラオケ連れていかれたの。俺はバンドは高校でやめたから静には言ってなかったけど。俺が隠してたのは、これくらいだ」
思えば、カードが挟まっていた小説には、かっこいいギタリストが登場するとインタビュー記事で読んだ気がする。
「せっかく内緒にしてたのに。俺の黒歴史」
「えっ、待って、何それ、黒歴史なの? 写真ないの? 動画は? 橋本さんとやってたの? プロ目指してたとか?」
「あー、静はいろいろ知りたがると思ったから敢えて言ってなかったのに」
「え、何、じゃあまだ他にも秘密あるとか?」
「さあね」
「だめ! 夫婦間で隠し事禁止!」
「それなら夫婦間で勝手に早とちりして疑うのも禁止だからね、できる?」
「それは……どうだろう」
今回のことで、隠し事のない夫婦なんていないと改めて知ることになった。
「ところでなんであの小説読もうと思ったの? 俺が勧めても全然だったのに」
「あ、雑誌で好きな俳優さんが絶賛してて」
「夫より俳優かよ、やっぱり酷いな」
「ごめんごめん」
その俳優が地元の中学の先輩だったということは、とりあえずこの先も秘密にしておくとしよう。
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