スライドショーに思いを馳せて

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結局晃司への想いは私の心の片隅に残っていたのだと、この時やっと気づいた。あのときほどの恋愛感情ではないとはいえ、想いはくすぶっていた。いろいろ理由をつけて自分をごまかしていたけど、結局心の奥底では、どうせなら晃司は私の知らない誰かと、私の知らないところで結婚すればいいと願っていた。 彩音と晃司が結婚すると知って自分の心の醜さを思い知った。私は内心では二人がうまくいくことを望んでいなかった。親友なのにこんなことを思って、ただただ彩音に申し訳なくて、こんな自分が嫌で仕方なかった。 大学時代のあの冬、失恋の痛みは時間をかけて徐々に消えていった。だけど今回は、1年かけてズキズキと痛みが強くなっていく。式の日取りを電話で聞いたとき、招待状が届いたとき、演奏を頼まれたとき、ピアノを練習しているとき。 今日という日が近づくほど痛みは増して、その痛みを隠して笑ってさらに苦しくなって。失恋の痛みじゃない。後悔、罪悪感、懺悔。いろいろなものが入り交じった黒くて鈍い痛み。それがじわじわと1年かけて私を蝕んでいく。 いつか消えてなくなる想いだと思って本当のことを言わずに逃げていたことが今になって重くのしかかってきた。 大学2年のバレンタインで彩音は「勇気を出して良かった」と言っていたのに。私も勇気を出せば良かった。言ってもどうしようもないことだったとしても、私もちゃんと言えば良かった。晃司のことが好きだったと。 私と彩音はそれくらいでダメになる関係じゃなかったのに……。晃司のことも好きだったけど、彩音はもっともっと大切な存在だったのに。勇気がなかったせいで、私は……。この痛みから逃れるために、二人から離れる道を選ぶしかできないのだから。 スライドショーの終盤で、二人のコメントの動画が流れ始め、私は静かに席を立つ。そして式場のスタッフの人の誘導で、ピアノの前へと向かった。 私は、お色直し後の二人の入場の時の演奏を任されていた。曲はショパンの「華麗なる大円舞曲」。2年生の定演の前、彩音と二人で練習したワルツの中の1曲。 席に着き、スタッフの人からの合図で私は鍵盤に指をあてる。1・2・3、1・2・3。昔やってたみたいに頭の中で三拍子のリズムをとる。 かつて晃司が私と似ているといった晃司のお母さんはとても優しそうで、私とは似ても似つかなかった。むしろあの優しい笑顔は彩音のそれとよく似ていた。
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