スライドショーに思いを馳せて

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扉が開き、白無垢から華やかな紫のドレスに着替えた彩音とタキシード姿の晃司にスポットライトが当たった。二人で選んで決めたのだろう。そのドレスは紫陽花が好きな彩音に本当によく似合っていた。ライトのせいではなく、二人が眩しくて。本当に幸せそうで。それだけ確認して、私は譜面へと視線を戻した。 披露宴と二次会が終わったら、私は東京を離れて地元の長崎に戻ることになっている。二人のいる東京にはいられないと思って、この1年をかけて転職サイトで地元の企業を探した。私も彩音と晃司と同じで誕生日を迎えれば28歳だ。父も母も口には出さないけれど、結婚のことを心配しているだろう。地元で婚活なりお見合いなりして、結婚しようと思う。 ごめんね、彩音。二人のこと、本当に祝福しているよ。だけど、逃げる私を許してね。 「この年に生まれて良かった。同級生で良かった。私達を同じ年に生んでくれた親に感謝している」 「なにそれ、のろけ? もう、フリーの私の前でやめてよ」 「違うって、晃司と早苗、二人と同じ年に生まれて良かったってこと。私は幸せだな」 私もいつか彩音と同じように言える日が来るまで。1年になるか2年になるか、どれだけかかるかわからないけれど。もう少しだけ待っていて。そうしたら二人に負けないくらいの笑顔で心からの「おめでとう」を贈るから。そのときにまた二人で一緒にこの曲を演奏しよう。 今までありがとう。そして、少しの間、さようなら。 【終】
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