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    セピアの海を泳いでいた。不思議な海だった。水中を漂っているのに、水中特有の無機質で、懐かしいさざめきはない。ただ、無音の中に果てしなく水が満ちているだけだ。  アーヌラーリウスは深い深い海の底を漂いながら、直感した。  ――生まれる……。  すると、セピアの深海に沈む自分の身に、突如として浮力が働くのを感じた。浮力を得た我が身は、次第に浮き上がり、それに従ってセピア色の水面の一点から眩い光が注ぎ始めた。  それは、水面が近いことを意味していた。そして、同時に耳鳴りがアーヌラーリウスを襲った。決して不快な耳鳴りではない。躰がその耳鳴りを必然のこととして受け入れているようだった。  白光が濃くなるに従って、耳鳴りの向こうから様々な音が漏れ聞こえてくる。  通りを走る車。  雑踏。  喧騒。  何かに沸く観衆。  ニュース原稿を読み上げるアナウンサー。  扉の開く音。  眩い光がセピア色を透かして、アーヌラーリウスの瞳を射る。閉じかけた瞼を何とか持ち上げ、眼球を動かす。天井を見て、次に窓が視界に入った。開け放たれた窓には、セピア色に変色したカーテンが揺れている。その向こうに太陽が燦然と輝いていた。     
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