野間さん家の居候

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『火事です。火事です。』  気だるい空気が満ちるなか、突如鳴り響くけたたましい警報音と機械音声。そして、鼻をつく焦げ臭さと粘膜を刺激する煙たさ。  それが何で、何処から発生したものか、朦朧としていた意識は瞬時に特定した。怠くて動かないはずの身体がバネでも付いたみたいに跳ね上がり、白濁の液体を滴らせた足はその場に向け駆け出した。 「あぁぁーっ!!」  台所に駆け込んだ俺は、コンロから立ち上る黒い煙に思わず足を止めてしまった。火に掛けていたスープが煮詰まってしまい、小さな鍋に残った具材が焦げ付き煙を上げていたのだ。弱火にしていたとはいえ、中身は一人分しかないのだ。しかも、温度センサーみたいな便利機能のない古いタイプのガスコンロ。数十分も目を離してしまえば簡単に水分は飛んでしまう。  幸いまだ火は出ていない。慌てて換気扇を回し、火を消したコンロから鍋を離そうと取っ手を掴んだ。 「あぢっ!」  ぐっと掴んだ取っ手は思った以上に熱くなっており、反射的にその場に鍋を落としてしまいそうになった。しかし、どうにか耐えて流しに放り投げると、即座に水道を全開にした。ジュッと水が鍋に触れ蒸発する音がし、黒い煙に混じりの白い水蒸気が立ち上った。  しばらく水を掛け続けたことで煙も落ち着き、流しの前に茫然と立ち尽くしていた俺にも安堵が訪れる。すると、気が抜けたのか、鍋の取っ手を掴んだ手がヒリヒリとした痛みを訴え始めた。見てみれば、火傷とまではいかないが、手のひらは真っ赤になっていた。 「どうかしましたカ?」  適当に冷やせば良いかなと、手のひらを水にさらしていると、台所に宇宙人がゆっくりとした動きで現れた。だが、鋭い眼差しが俺を捉えるなり早足で近づいてきて、水にさらしている手を掴んだ。
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