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世界には二人だけ
別れの時、船着き場には小舟が並べられ、多くの町の人が見送りに来てくれた。
「キーラ、マルタさん。元気でね」
ユキが涙を浮かべて別れを告げた。
キーラがユキに抱きつく。
「いつでもサマルディアに遊びに来てね。それに……もしまた何かあったら手紙を送ってちょうだい。いつでも飛んで来るから」
そのユキの言葉にアルスがギョッとする。
「ちょっと待てよ……」
アルスが口を挟もうとすると、ユキがアルスを睨みつけた。
「今度手紙を隠したりしたら、実家に帰らせていただきます」
ユキが言い切るとアルスが困惑した。
「実家って……」
「実家はエレノワ様の宮殿よ。この前大宮殿にいらした時に『手紙を隠されたんです』ってお話したらいつでも帰ってくるように言われちゃったもの」
アルスが目を丸くする。
「そんな事話すなよ!」
「話すわよ。 今度キッチリお灸を据えてやろうっておっしゃってたわ。エレノワ様は怒るとすごーく怖いんだって」
ユキがニヤニヤとしてアルスの顔を覗きこんだ。
「そんな事はとっくに知ってるよ!」
言いながらもアルスはホッと胸をなで下ろしていた。
ユキの言う「実家」がこの世界で良かったと思ったのだ。
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