愛して、先生 ~壊れた欠片

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『・・・え?』 電話の向こうから聞こえる、藤原の驚いた声。 しかし、俺自身の方が驚いている。 用なんて、ないのだから。 「・・・す、数式」 『数式?』 「数式を、生徒に覚えさせるときは、ど、どういったことを心がけていますか?」 『・・・なんで数式?』 「か、化学式を、生徒に化学式を覚えさせるのに、苦労していまして」 心臓が鳴りっぱなしだ。 俺の真意に気づかれるんじゃないかと。 『堀江先生・・・』 いや、おそらく、藤原は見透かしている。 俺が・・・通話を終えたくないということを。 『・・・まったく、あなたって人は』 「は・・・?」 『その話はまた後日しましょう。今はそれより――』 電話の向こうで チュッという音がした。 まるで、口付けられたときのような、 甘い音が。 「・・・なんですか?」 『堀江先生、ソファに座ってください。クリスマスに俺たちが抱き合った・・・あのソファに』 「な、なぜ・・・」 『あのときのように、あなたを・・・・・・感じたいから』 これは、電話だ。 藤原には俺の姿は見えない。 だから、適当に返事をしてしまえばいいのに、 俺はソファへと歩き出していた。 電話の向こうから聞こえる口付けの音に、 鼓動が速くなっていくのを感じながら。     
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