目覚めってやつ

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 国民的スーパーアイドルなんて、疲れるだけだ。数か月前、所属するグループが解散したせいで混乱がいまだに続き、さらに俺を疲労させている。しかも俺が一人、仲間を裏切った形となっていて、マスコミからネットの匿名連中、果てはほかのメンバーのファンにまで、さんざんに中傷されている。やってられない。本来ならば。  けれど俺には、アイドル以外にも大切な役目がある。それは妻と娘たちを守るってだけじゃなく、実は事務所から禁じられている副業ってやつがあるのだ。「呪禁師(じゅごんし)」って、響きは水の生物っぽいが、仲間が言うには伝統あるらしい神職で。  さっきまで、家の3階にあるプラネタリウムのドームをちょっとだけ開いて、遠い空がキモい紫と灰色の混じったのに染まってるのを確かめていた。水槽に紫と灰色のインクを落としたみてえに、雲っぽいのがじわじわ広がってく。加速するその雲っぽいのの中で、汚え火花が散ってた。 「またかよ……」  情けねえ声が出て、自分にうんざりした。あの雲っぽいのの中に、俺の娘を狙う邪気ってのがいる。長女の虹心(ななこ)は、まだ5歳。なのに、俺が生まれる前のアニメや漫画、特撮についてめちゃくちゃ詳しい。仲間の「そういう系」に詳しいやつに相談したら、想定外すぎる答が返ってきたんだ。 『辰堂(しんどう)クンの娘ってさぁ、来世の記憶があるんだよねぇ』  微妙な顔で言われた俺の気持ち、わかる?
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!