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 それはきっと、取るに足らないものだった。  斜陽のきつい夏の夕暮れ。コンビニの前に佇む男。目の前の出来事すべてが、一枚のフィルムに収められた静止画の羅列に見える。彼は分かりやすく美しかった。少なくとも私にはそう見えた。西日を反射させてきらきら瞬く派手な金髪と、耳や顔の薄い皮膚を突き破り不均等に散らされたピアスの数々、斜陽に晒された二メートル近い大きな体躯は光をまとったように輝いて、まるで月の雫が空から降ってきたようだった。煙草を咥える彼の口元、それを挟む指先、気だるげにたわんだ猫背の曲線、盛り上がった肩甲骨、吊り上がった目尻、金髪、ピアス、彼を構成するすべて、どこを切り取ってもひとつ残らず美しかった。それらひとつひとつ、私の人生にはすべて取るに足らないものもの、しかし余りに眩しくて美しく魅せられたものだから、その男が顔見知りだと気づくのに暫くの時間を要した。  不意に彼と視線が重なり、立場上無視するのもよろしくないと思い足を彼に寄越した。彼は私を黙って静観し、短くなった煙草を地面に放ると砂埃にけむった革靴の爪先で執拗にそれを押し潰した。 「こんにちは、久留須くん」 「……………どうも」     
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