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「よし、こんなもんかな」
三人分の朝食を作り終えた名取誓は、満足気に腰に手を当てて息を吐く。
茄子の味噌汁に焼き鮭、卵焼きにサラダ、昨日作っておいた漬物も添えた、自画自賛したくなるほど完璧な朝食だ。
だがこれはまだ序章に過ぎない。本当の一日はこれから始まるのだ。
リビングを出て、誓たちが二人で使っている寝室へと向かう。まずは〝彼〟を起こさなければ。
「賢矢! 朝だよー!」
勢いよくドアを開け、彼が眠るダブルベッドへと近付いていく。誓が抜けた後のベッドの真ん中で気持ち良さそうに眠る姿を見てもう少しだけ寝かせたくなるが、そうもいかない。
「今日は休日出勤だって言ってたでしょ。遅刻してもいいの?」
誓は心を鬼にして布団を引き剥がしにかかる。掛け布団を奪い去ろうと力任せに引っ張るが、華奢な誓と学生時代に柔道をやっていた彼とでは、その差は歴然だ。
「早く起きてってば!」
「んー……あと十五分」
「せめて五分にして!」
こんな攻防戦を毎日のように繰り返して、もう七年になる。
と言うのも彼――名取賢矢が七年前、誓が二一歳の時に生涯の伴侶となったからだ。
日本で同性婚が認められるようになった今日、誓と賢矢は正式な夫婦として充実した日々を送っていた。
「ったく、それじゃあ俺が雫玖を起こしてくるまでに起きてよね」
そして二人には家族がもう一人いる。
いくら同性婚が容認されたからといっても、それはまだ少数派だ。そこで近年、少子化対策の意も込めて、同性の夫婦でも養子がとれる制度が整ったのだ。
予てより子供が欲しいと思っていた二人は四年前、ここに新たな家族を迎え入れた。
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