2章 学院の生徒たち

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「マルセル……待てよ、マルセル!」  鋭い声に呼び止められ、マルセルはぎくりと足を止めた。こんな声、こんな口調で自分を追いかけて来る人物は、学院内には一人しかいない。  恐る恐る振り返ると、やはりルネだった。ルネは赤鹿毛の頭髪を乱し、息を弾ませ肩を尖らせたままでマルセルの前に立つ。  かつての友達で幼馴染みの怒った顔を見、マルセルは絶望的な気持ちになった。図書館でも標本室でも逃げることができたが、今回はそれも適わないらしい。  途端に膝を震わせるマルセルを廊下の端に移動させ、ルネは勢い込む。 「おい、あんな態度を取って、先輩たちに失礼だとは思わないのか? ジェレミー先輩について、少しくらい話をしてくれてもよかっただろ」  やっぱりその話だったらしい。ルネの言うとおりだ。小さな子供じゃあるまいし、怯えて何も言わずに逃げ出すなんて、先輩たちはさぞ呆れただろう。ルネもきっと。 「こっちを見て話せよ、マルセル」  視線を逸らしているとぐい、と肩を掴まれ、無理矢理正面を向かされる。 「標本室でも、せっかく一緒になったのに僕を無視して。僕は見てたぞ、アルベール先輩に、もっときちんと話をするべきだったんじゃないか? 先輩はジェレミー先輩の無念を晴らそうと、レイヴィス先輩と必死になってるんだから」  本当にそうだ。ルネは正しい。いつもいつも、自分がするべきことを教え諭してくれる。だけど今はその正しさが苦しくて、喉の奥が潰れてしまいそうになる。 「なあ、マルセル」  何も言い返せずにいると、ルネがこちらをのぞき込んできた。深い茶色の瞳に歯がゆさを滲ませ、彼は言葉を継ぐ。 「君は、そんなに臆病で卑屈な奴じゃなかったろ。君があの時そばにいてくれて、僕がどれほど心支えられたか、君だって分かってるはずだ」  もちろんだ、分かっている。泣きやんだ本人から、直接伝えられたから。
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