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俺と同じくらいか、もう少し上か、そのくらいの年頃だろうか。
その男は、濃紺のチェスターフィールドスタイルのコートを纏っていて、そしてそれは、このあたりの人間でそんな上着を着ているヤツなんてまずいないようなシロモノだったから、余計にそいつの年齢の判別がつかなかった。
その日はひどく冷え込んでいて、俺は古着で手に入れた分厚いムートンジャケットの襟を立てて、亀の子のように肩をすくめていた。
けれど、男の首元はマフラーのひとつもなく、ピシリとアイロンの当てられたカラーにえんじ色のタイを締めていて、結び目の下に、ひとつぶ留め付けられた真珠のタイピンがあらわに見て取れた。
その有り様がひどく寒々しく見えて、俺は手にしたジンを、ずいと男へ差し出した。
男が、俺に目線を向けた。
身体をはすかいにしたままで、どこかしら、かすかに挑むように。
そして、手を伸ばして紙袋に包まれた壜を受け取る。
口もとに壜を近づけた瞬間、男の表情がこわばる。
安酒の匂いが不快だったのだろうか。
それでも、ごく形ばかり口腔を湿すほどにジンを含むと、壜を俺へ差し戻した。
そのまま、ちょうど互いに腕を伸ばせば届くくらいの距離で、俺たちは草地に佇んでいた。
残光に沈みゆく城跡のシルエットを、男は見つめ続けていた。
俺もまた、同じようにして丘の向こうに消えた夕日の名残を見つめていた。
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