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「パパ、ママ。わたし、しげる伯父さんと結婚するから」
娘の唐突な言葉に、父親は酒のつまみに食べていた枝豆への力の配分を間違え、すぽんと中の豆を飛ばし、母親は湯飲みにお茶を入れ続け溢れさせた。
2人共、ぽかんと口を開けて娘をまじまじと見つめる。
「え? ……え!?」
先に我に返ったのは父親の方だった。
きれいな2度聞きである。
当の娘――柏木 美里は真剣な表情で枝豆と格闘している。
「お前……」
「何も言わないで! パパの言いたい事は分かってる。まだお前に結婚は早いとか、しげる伯父さんとは歳の差がありすぎるとか文句言うんでしょう? でもでも、パパもママも言ったよね? わたしがT大に受かったら何でも言うこと聞いてくれるって。だから、わたしはその権利を使って伯父さんと結婚するの。はい論破!」
ふふんと得意気な顔で饒舌に語る美里を、父親は複雑そうな顔で見つめている。
母親も困ったように頬に手を当て首を傾げた。
「いや……、まぁ、文句もあるがお前……。そもそも、伯父と姪は結婚出来ないだろう」
「え?」
今度は美里が目を丸くする番だ。
父親を支援するように、母親も言葉を重ねた。
「そうねぇ。伯父と姪は3親等内だから、法律上、結婚は出来ないわねぇ」
その言葉に美里は固まった。
では、何のために必死に勉強したのだろう。
友達と遊ぶ時間も惜しんで塾通いをし、寝る間も惜しんで参考書にかじりついたあの日々は一体……?
涙腺が、ぷつんと切れる音がした。
柏木 しげるは、弟に呼び出され、わざわざ家まで出向くと、煙草をくわえたまま呆れ果てたように息を吐いた。
「ひろし、お前こりゃ……一体どういう事だよ」
「見ての通りだよ、兄貴。美里に手がつけられない」
美里の父親、ひろしとその兄、しげるは廊下に立ってトイレを見つめている。
トイレの前には美里の母親がドアをノックしながら、しきりに声を掛けている。
美里が泣きながらトイレに立て籠って1時間が経つ。
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