第十三話 異端風狂《いたんふうきょう》

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「いいか、今から話す事は歴史には決して残らない裏事情の事だ。直接お前には関係 無いが後に関わってくる事になる。よく聞けよ」  腕の中の千愛に囁き腕を緩めた。自らの左腕を枕に寄り添わせるようにして 千愛を寝かせる。千愛は目を大きく見開き、真剣な面持ちで頷いて見せた。 そして帝は口調を変え、物語を読み聞かせるようにして語り始める……。  995年、八条天皇即位中。未だかつて無い程に天候が崩れた。真冬に雷が鳴り嵐が、 春に雨不足、真夏に吹雪が降り、秋に猛暑。まさに異常気象であった。それも、不可思議な事に平安京の近辺のみに起こる現象。相次ぐ嵐や竜巻で宮中や貴族達の家は損壊した。庶民達にはそれほど影響はなかったが、公家、貴族達は大打撃であった。 ……呪詛……  口には出さずとも皆そう感じていた。帝の影より(まつりごと)を動かし、歴史を 影より操っていた道長をはじめとする藤原一族。栄華を極める為に邪魔な人物、一族を次々と闇へと葬り去っていた。特に、源氏一族の恨みではないかと、宮中では密かに 噂になっていた。  ある時、決定的な事が起こる。突然空が暗黒に包まれ、雷鳴が轟き、一筋の稲妻が 宮中の庭に落ちた。落雷である。  さすがに不安になった道長は、数多くいる宮中陰陽師の中でもずば抜けて稀有なる力 を持つ『安倍晴明』に依頼した。この平安京界隈に訪れる天変地異の原因追及と除去を。  晴明の占術結果は……。 『花道天皇の退位と八条天皇の即位の時期が良くなかったのと、強引に排除された 一族の怨念が積りに積もった結果である』  との事であった。自らの野望達成を急ぐあまり花山天皇の退位、八条天皇の即位の 時期を占わなかった事、いささか強引に他の一族に牽制をかけ過ぎた事を悔いた。  だが、もう仕方がない。対策方法は、 『ある一定期間「裏歴史」を立てる事。但しこの歴史は後世に残してはならない。 跡形も無く消し去る事』 「……裏歴史、ですか?」  千愛は、話が途切れた瞬間にすかさず質問を挟む。自らの話に真剣に耳を傾け、 絶妙なタイミングで問いかける千愛に、知性と教養の目覚ましい成長ぶりを頼もしく 感じた。 「あぁ、そうだ。裏歴史、つまり、怨念の現象が収まるまので間、矢面になる帝を 立てる。その間の表向きの歴史では八条天皇の即位期間さ。つまり歴史上では無 かった事になるのさ。その矢面に立つ帝と995年の天変地異はな」
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